Rouge Tea Party @Caltech

Caltechで理論物理の研究をしています。

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2016年1月

忙しくて放置していました。すみません。

1月1日からはカリフォルニアの海岸沿いの町サンタバーバラにある理論物理研究所であるKITPにて、(量子重力を念頭に置いた)テンソルネットワークと量子コードに関する研究会に参加していました。サイモンズ財団のIt from qubitプロジェクトの一環で、プロジェクトメンバーである高柳さんや、メンバー外のゲスト研究者の方々が出席されていました。オーガナイザーのPolchinskiと僕の元ボスであるPreskillを除けば、全体的にはかなり若い世代の研究者が大部分を占める、ある意味では活気の溢れた研究会でした。

僕はMarolfさんにお願いされたので、素粒子論の人たちに向けた量子コードの理論に関するチュートリアル講演をしました。KITPにおける2016年最初の講演だったようで、なかなか緊張しましたがなんとか乗り切りました。ただ、反省点もたくさんあったので、中長期的な視点で改善していきたいと思っています。自分の研究に対する姿勢みたいなものを再確認する良い機会でもありました。

photo12.jpg

研究会では色々な所で様々なプロジェクトが動き出していて、どれも面白そうで、どれに集中すべきかとても難しい選択でした。僕はMITを訪問した時にS君と考え始めた問題について議論したり、S君とW君と多体エンタングルメントの問題を考えたり、R君とこれまでの研究の続きを考えたりしていました。P君が、量子コードのとある定理の、AdS/CFT対応における面白い帰結の話をしていました。どういう問題にアタックするかもセンスですし、この辺は難しいですね。

近年の量子重力&量子情報の関連分野の進展は目覚ましいものがあります。僕は量子情報理論と物性理論の一部にしか詳しくはないですが、これだけ一気に研究が進展していくのは歴史的に見ても非常に稀な事だと思います。量子情報理論だと、まさに因数分解アルゴリズムが出てきて、これから色々な事が始まっていくんだ、そんな予感すら感じられるほどです。そんな激動の(?)時代に、とても優秀な研究者の方々に混ざってプレーヤーとして研究できるのは、幸せな事です。僕も、Holographic Codeで歴史の1ページくらいには貢献できたかなと思いますが、ここで終わってしまってはもったいないです。

もともと僕は、世間一般で考えられているような、いわゆる「量子情報理論」にはほとんど興味がありませんでした。現状では実験的に実現できるかは非常に不透明ですし、それは僕が研究を始めた頃から何も変わっていません。なので僕は当初から、量子情報を使って理論物理学の問題を解こうと考えていました。そのような考えの元、これまでは量子多体系の研究をしてきました。主にTQFTに分類されるような系をあつかってきたのですが、それがCFTになっただけなので、要はエネルギーギャップがあるか無いかだけの違いのようにも思います。

子育てで1ヶ月以上もフルタイムでは研究していなかったのですが、やっぱり最初の2、3日は頭がちゃんと回転していないような感覚があって、難しいなあと思いました。ただ、そんな子育てボケもすぐに治って、頭も通常運転に戻って、刺激的な滞在となりました。一方でここにきて、プロフェッショナルな英語を話す事の難しさを痛感しています。例えば、大栗先生はパーティーの席などで即興で気の利いたスピーチなどをこなす事ができるでしょうが、僕にはまだハードルが高いように思います。この辺りは、日本語か英語かの問題でもなくなってくるので、単に教養の問題と捉えていく方がよいかもしれません。

KITPの後は、QIPが行われるカナダのカルガリーに移動しました。うってかわって、雪模様の町に興奮しながらも、なんとなく気分は憂鬱でした。

photo11.jpg

QIPは、おそらく量子情報理論における最高峰の学会となっていて、他の分野の学会と比べても飛び抜けたトークの採択率の低さを誇っています。なので、量子情報コミュニティーの人々にとっては、ここで発表することが非常にステータスになっており、またQIP自身も学会を権威あるものにするために相当の努力を払っています。今年は光栄なことにも、運営委員に選ばれましたので、運営の様子などを見る事ができました。(僕のした仕事は、20くらいの論文をしっかりと査読することで、1ヶ月まるまる吹っ飛んでいきました・・。)とても勉強になりました。

しかし競争が激しくなる一方で、QIPでは新しいアイデアよりも非常にテクニカルな結果が好まれるようになっているのも事実です。クリエイティブなアイデアなんてそんなぽんぽん出てくるわけでは無いのですが、それでも、難しそうな定理の証明などが並んでしまうのが現状で、僕自身、非常に複雑な気持ちでQIPの行く末を見ています。それに、正直に言ってしまえば、大半のトークが理解できないようになってしまいました。

量子情報理論は現在、おおまかには4つに分ける事が出来ると思います。
1、情報理論
2、計算機理論
3、物理系
4、基礎論&哲学
このうち基礎論&哲学に関しては非常に毛色が違うので、実質は上の3つがQIPのターゲットとなっています。僕は当然3に属しているのですが、1と2がQIPのメインを成しており、3は少しずつプレセンスが低くなっているのが現状です。

(少なくとも3の人々にとって)問題なのは、1&2の分野がかなり成熟してきて、他分野の研究者には非常にとっつきにくくなっている事です。これは古典の場合でも同じですが、実用から派生したはずの研究分野にもかかわらず、1&2の研究対象や手法は純粋数学に非常に似てくる傾向にあります。なので、学会全体が純粋数学よりになっていき、定理などを証明することのない物理系の論文がアクセプトされにくくなっている現状が生まれているように思います。もちろん、1&2の発展は非常に喜ばしいことなのですが、学会自体がハイジャックされているように感じる物理系の方々は多いでしょう。

現に、主に弦理論から生まれた重要な量子情報の結果などは、QIPに投稿されることすらなくなってしまいました。例をあげるならば、Maldacena-Stanford-Shenkerのカオスに関する論文、SusskindたちによるComplexity=Actionの論文、Evenbly-Vidalによる新しいMERAに関する論文などです。この3つの論文は、まぎれもなく革命的な論文だと思うのですが、QIP参加者にとっては「そもそも主張の定義が数学的に厳密じゃない」から興味がわかないそうです。僕は、「正しい定義」を見つけることこそクリエイティブな研究の醍醐味だと思うので、そこを他人任せにしてしまう人々の考えはイマイチ理解できません。

このように色々思う所のあるQIPなのですが、僕自身は今年は当たり年で、4つの論文をアクセプトさせる事に成功しました。これはちゃんと確認していないですが、ETHのRennerと、IBMのBravyiと並んで最多タイではないかと思います。Rennerは大きなグループのボスで共著が多いので、実質はBravyiとタイという事で、非常に光栄極まりないです。僕としては、自分のレジュメの強化にもつながりますし、こういう学会があると年単位での研究スケジュールにメリハリがつけられるので、これからも参加していきたいと思っています。

とは言っても、とうてい理解できないトークに参加する気は無いので、大半の時間はスタンフォードのW君と議論をするのにあてていました。Kapustin-Thorngrenの2-group TQFTの話をきっちり理解しようと議論をしたり、多体エンタングルメントの事をさらに議論したり、とても充実した時間となりました。

しかし思わぬ落とし穴。帰宅する直前になって、高熱を出してしまってどうにも動けなくなってしまいました。結局3日間滞在を延ばしたのですが、最初の2日は食べると吐いてしまうので、りんごジュースだけ飲んでひたすら眠るだけでしたが、なんとか持ち直して自宅まで戻りました。一度昔、38度くらいの熱のまま東海岸から西海岸への飛行機に乗って、自宅に帰った頃には熱が40度近くになっていたなんて事があったので、無理はしないで予定を変更させることにしました。

そんな感じで、1月から忙しくしています。またそのうち、過去の事も思い出して記録していこうと思います。それでは。


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  1. 2016/01/23(土) 15:15:41|
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